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佃の長屋
旧伊東家住居改修計画

設計
斎藤信吾建築設計事務所
所在地
東京都
用途
住居
構造
W
規模
地上2
状況
進行中
竣工
2026/06(予定)

既存を活かし蘇らせる

本計画は、東京都中央区佃島に位置する「佃の長屋―旧伊東家住居改修計画」です。佃島は江戸時代から続く漁師町としての歴史を持ち、現在も路地空間や長屋形式の住宅が密集する独自の都市景観を形成しています。本建物は、その中でも路地に面して建つ裏長屋の一棟であり、地域の生活文化を色濃く残す貴重な建築です。

本建物は、大正元年(1912年)頃の竣工と推定されており、震災以前の佃の住居形式を現在に伝える希少な事例です。埋立地として開発された月島・佃島周辺では、通りに面する表長屋は早くから二階建が普及していた一方で、路地に面する裏長屋は平家が一般的でした。二階建の裏長屋が広く見られるようになるのは関東大震災後の昭和初期とされており、本建物はそれに先行する二階建・二軒長屋の一棟である点に特徴があります。現状の住戸は、その後の改修を経て戸建住宅として使われてきたものと考えられます。

空間構成において特筆すべきは、二階部分の座敷です。現在の二階は昭和初期の改造によるもので、当初は天井の低い「ツシ二階」であったと推測されます。また、梁間を二間に抑えつつ、前面に幅一間の大きな下屋を設けて「前台所・前便所」を配置する形式は、佃における古い住居形式をよく伝えるものです。こうした構成は、限られた敷地の中で生活機能を柔軟に展開する知恵であり、地域固有の住まい方を体現しています。

路地をレスタウロする

本計画では、このような歴史的背景と空間構成を丁寧に読み解きながら、既存の構造や素材を活かした改修を行いました。ここでいう「レスタウロ(restauro)」とは、イタリア語で修復・改修を意味する言葉ですが、単なる修繕や復旧にとどまらず、歴史的価値を読み解きながら新たな創造性を加える「創造的な改修」の概念を含んでいます。

単に建物を更新するのではなく、これまでの増改築の痕跡や生活の蓄積を尊重し、それらを手がかりとして現在の空間を再構成することで、時間の重なりを感じられる場を立ち上げています。一階の床は畳の床組を解体し、新たに施工した土間コンクリートの上にタイルを敷設しました。二階は天井を撤去して小屋裏を現し、既存よりも高い天井高を確保しています。

また、隣家に接する外壁側は外部からの改修が困難であるため、内部側に設備・断熱・新設開口を組み込むかたちで壁をふかしつつ、足元は可能な限り薄く抑える計画としました。これにより、一階は内部にいながらも路地の延長にいるかのような、都市的で連続性のある空間が生まれています。特に、路地に開かれた建物の在り方や、内外の曖昧な関係性を活かしながら、現代の居住環境としての快適性も両立させています。

佃の長屋は、個々の建物だけでなく、路地や隣接する住戸との関係性の中で成立する都市的な存在です。本計画は、その一棟を対象としながらも、路地空間を含めた環境全体を「レスタウロ」する試みとして、佃島に連なる生活風景の価値を再認識し、次世代へと継承していくことを目指しています。

#改修, #保存

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